この記事では、運動エネルギーと仕事の関係を導くことを目標とする。
教科書などではよく、「運動エネルギーの変化量=仕事」と突然暗記させられたり、直感的な説明からなんだか口車にうまいこと乗せられたような式の導出をすることが多い。
そこで今回は高校数学の範囲から逸脱しないような微積分を使って、しっかりとこの関係式を導く。
そのために必要な各物理量の微積分による再定義も同時にこの記事内で行うので怖がらないで読み進めてほしい。
また、微積分を用いない仕事とエネルギーについての解説はこちら。

00導くための準備
運動方程式からエネルギーの関係式を導くためには、微積分の力が必要である。
そのために、速度および加速度を微分によって定義しなおす。
①瞬間の速度
物体が運動して位置が変化したとき、その変化した量を変位といい、$\Delta x$ と表す。
瞬間の速度とは、変位を移動時間で割ったものであるから、
$$\frac{\Delta x}{\Delta t}$$
と表される。
ここで、 $\Delta t$ を測定不能なレベルで瞬間的なものにする。
つまり、限りなく0に近づけるという操作を取ることによって、
$$v = \lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta x}{\Delta t} = \frac{dx}{dt}$$
となる。
すなわち、瞬間の速度とは物体の位置$x$の微分である。
②瞬間の加速度
速度は位置の単位時間当たりの変化量、すなわち位置の微分であった。
加速度は速度の単位時間当たりの変化量であったから、速度の微分であると予想がつくであろう。
実際、瞬間の加速度は
$$\frac{\Delta v}{\Delta t}$$
と表せて、$\Delta t \to 0$の極限を取ることによって、
$$a = \lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{dv}{dt}$$
となる。
確かに加速度は物体の速度の微分となっていることがわかる。
ここで、以上の関係式をまとめると次のようになる。
加速度の定義:$\Large{a = \frac{dv}{dt} = \frac{d^2x}{{dt}^2}}$
③仕事の定義
物体が力によって移動されたとき、その力は「仕事をした」といい、物体は力によって「仕事をされた(受けた)」という。
力がする仕事の大きさは、物体が瞬間的に移動した量$dx$とその時の力$F(x)$の積をすべての区間で足し合わせることによって、
$$W=\int_{x_1}^{x_2} F(x) dx$$
と表される。
特に力$F(x)$の値が$位置x$によらない定数であるとき、これを計算すると、
$$W=\int_{x_1}^{x_2} F dx$$
$$=\Bigl[Fx\Bigr]_{x_1}^{x_2}$$
$$=F(x_2-x_1)$$
$$=F\Delta x$$
となって、積分を用いない仕事の定義と一致する。
01運動方程式を変形する
それでは運動方程式を変形してエネルギーと仕事の関係を導いていく。
運動方程式は、
$$ma=F$$
と表せるのであった。
これに先ほど定義しなおした加速度$a=\frac{dv}{dt}$を代入すると、
$$m\frac{dv}{dt}=F$$
となる。
この式の両辺に、$v=\frac{dx}{dt}$をかけて積分する。
$$\int_{t_1}^{t_2} mv\frac{dv}{dt} dt=\int_{t_1}^{t_2} F\frac{dx}{dt} dt$$
置換積分の要領で両辺の積分変数を置換してやると、
$$\int_{v_1}^{v_2} mv dv=\int_{x_1}^{x_2} F dx$$
$$\Bigl[\frac{1}{2}mv^2\Bigr]_{v_1}^{v_2}=\int_{x_1}^{x_2} F dx$$
$$\frac{1}{2}m{v_2}^2-\frac{1}{2}m{v_1}^2=\int_{x_1}^{x_2} F dx $$
という等式を得る。
右辺の積分は仕事の定義式であり、左辺は $\frac{1}{2}mv^2$という量の変化量(後の状態-前の状態)であるということがわかる。
ここで、その$\frac{1}{2}mv^2$という値を運動エネルギーとして定義することにする。
以上の積分および、新たな運動エネルギーという量の定義により、かの有名な
という等式が成立する。
関係式を導く途中で、運動方程式の両辺に $v=\frac{dx}{dt}$ をかけるという操作をしたが、これはどのような発想から生まれるものだろうか。結論から述べると、「定義した仕事という量を右辺に登場させたいから」である。
仕事の定義は、力 $F$ を距離 $x$ で積分した形となっており、この形を運動方程式から導くためにこのような手順を踏んだのである。つまり式変形によって目的の形を作った結果、左辺に出てきた式を運動エネルギーと名付けたのである。
このように、物理の世界では高校で習うような「現象があって、定義がある」という形よりもむしろ、「式が出てきて、名前を付ける」という形の方が多いということを覚えておくとよい。