00はじめに
さて、今回はニュートンの運動方程式という物理学の基本概念について一から解説する。
高校物理や物理基礎を学習していて、この運動方程式が出てきたあたりから急に複雑な問題設定やたくさんの文字が出てきて混乱する人は特に多く、運動方程式についての疑問が解けないまま学習を進めてしまう人も多い。
これらのことを踏まえて、ここでは初歩の初歩から学習し、しっかりと運動方程式を理解することを目標とする。
このページは主に以下の事柄について理解することを目的としている。
・運動方程式とは何か
・運動方程式の成分表示について理解する
・加速度と力の関係を知る
・質量について知る
・実際に運動方程式を用いた問題を解けるようになる
運動方程式に入る前に、力に関する基礎的な内容は以下の記事で学ぶことを推奨する。

【図解】力の性質とベクトルについて理解を深めたい人へ【物理基礎】
力とは?力の性質や合成、分解について詳細に解説しました。
物理基礎を学び始めた人にとって障害となりやすいベクトルの合成ですが、ポイントを押さえればとても簡単です。
実践を見据えた細かいコンテンツで物理の勉強をサポートします。
01運動方程式についての諸注意
さて、運動方程式の具体的な話に入る前に、一つ重要なことがある。
それは、「運動方程式は力学の公理で、証明不可能である」
ということである。(厳密には証明できる物理の世界も存在するが、難しいのでここでは扱わない。)
力学のほぼすべての法則は運動方程式を使って証明することができるが、その運動方程式そのものは数式を用いて証明することができない。
というより、運動方程式をすべての理論の出発点とすることによって力学の理論は成り立っているので当然のことである。
とりわけ力学をはじめとした物理学の世界においては、現実的に起こりうることを数式を用いた理論で裏付けするというスタンスであるから、乱暴に言えば「運動方程式がなぜ成立するのか」がわからなくても「運動方程式を使えば簡潔に理論を構築できる」という事実の方が重要なのである。
・運動方程式は証明できず、公理の方程式として扱う。
・運動方程式は力学のルールである。

実は運動方程式は原子や電子といったミクロな世界では厳密に成り立たないことが知られており、このようなミクロな世界を扱うためには「量子力学」という学問を学習する必要がある。
そう言うと、
「じゃあすべて量子力学を使えば良いのでは?」
「なぜ正しくないとわかっているのに運動方程式を使い続けるの?」
という疑問が浮かぶかもしれない。しかし、その考え方はあまりに短絡的である。
運動方程式を用いた力学の理論は、現実の世界のスケールでは何ら問題なく、しかも量子力学なんて難しい概念よりもはるかに簡単に使用できることこそが運動方程式を用いた力学(古典力学という)の存在意義なのである。
物理をはじめとした科学(Science)の世界では、特にミクロなスケールとマクロなスケールを適切に使い分ける必要がある。
例えば、ボールを構成している原子一つだけを見ていても、現実世界でボールがどのように動くのか予測することは非常に困難である。なぜなら原子同士は単純な運動の重ね合わせではなく、相互作用する可能性があるからである。
このように、現在も古典力学はマクロなスケールを簡潔に表現できる理論として用いられている。
02 運動方程式の形
では運動方程式と呼ばれる式の形、そしてこの方程式が何を表しているのかを見ていくことにする。
物理学における最重要の式といっても過言ではないこの式、運動方程式は
$$m\vec{a}=\vec{F}$$
と表される。
ここで、$m$は注目している物体の質量[kg]、$\vec{a}$は加速度ベクトル[m/$s^2$]、そして$\vec{F}$はその物体にかかる力のベクトル[N]を表している。
さて、ベクトルという量が出てきて混乱する人も多いと思うが、加速度や力は方向を持っているというだけのことである。
わからなければここではあまり深く考えなくても後々理解すれば大丈夫である。
この運動方程式を方向の成分ごとに分けて大きさだけを考えることによって、ベクトルではないバージョン
$$ma=F$$
となる。
これは方向の成分ごとに分かれているから、加速度$a$と力$F$の方向は一直線上(逆向きでもよい)でなければならないことに注意する必要がある。
従って、図のようにたとえ一つの物体だとしても様々な方向から力を受けている場合、任意の方向に力と加速度を分解し、それぞれの方向について運動方程式を立てる場合も多い。

運動方程式は方向成分ごとに分けて立式するのが基本
さて、運動方程式を眺めてみると一つ重要な事実がわかる。
それは、$F=0$ ならば加速度はない、つまり力が釣り合っていれば物体の速度はそれ以降変化し得ないということである。
逆に言えば、力そのものはかかっていても良いのである。物体にかかるすべての力が釣り合っていて、合力が0であることこそが物体の運動をそれ以降変化させない条件となる。
$F=ma$ か $ma=F$ か問題
実はこの$F=ma$ か $ma=F$ のどちらを使うか問題は昔から議論されており、これらのどちらを使うかによって運動方程式の持つ意味が多少なりとも変わる可能性がある(と主張されている)。しかし私は一般的な力学の問題を解く際には$ma=F$の方が問題を解く際に便利なのでこちらを使うことを推奨する。
なぜなら一般的な問題において加速度の$ma$の項よりも力$F$の項の方が長くなりやすく、右側に書いた方が式をきれいに書けるからである。
実際には$F=ma$ という形も、さらには$ma-F=0$ なんていう形も良く使われている。
物理の式には、このような「流派」による違いなどが一定数存在することを知っておくと良い。
次に、もう一つ大切なのは質量$m$の存在である。
質量というと「物体の重さ」というイメージがあるかもしれないが、それは実は間違いである。
実際の「重さ」に当たるのは、物体が地球上で受けている重力のことで、この重力は「質量×重力加速度(約9.8m/s^2)」として求めることができる。
では質量とは何なのであろうか?
$$ma=F$$
という式を見ると、ある一定の力を加えたとき、質量が大きければ大きいほど、加速度は小さくなると理解できる。
例えば、テニスボールがぎりぎり動くくらいの大きさの力をトラックに与えてもトラックはびくともしないだろう。
これはトラックの質量がテニスボールの質量に加えてはるかに大きいからということになる。
つまり質量とは、「物体の加速しにくさ」を示しているということができそうである。

ではここまでの話をまとめる。
・運動する物体は運動方程式に従う。
・「加速度あるところに力あり」
・質量とは物体の「加速しにくさ」
03 運動方程式を使って問題を解く
では運動方程式を実際の問題の中でどのように使うのかを見ていくことにする。
運動方程式は、原則力学におけるほぼすべての問題に登場するといって過言ではないだろう。(例外はあるが)
従って、力学の問題に出会ったらまず運動方程式を立てるという癖をつけてしまうことが力学攻略のカギになることは言うまでもない。
具体的には、
1.注目する物体を決定する
2.その物体にかかる力を正確に把握する
3.運動方程式を立てる
4.未知数について解く
という手順を踏むことになる。
ここで、運動方程式は「注目する物体」について立てるので、注目する物体が2個、3個とある場合は立てるべき運動方程式もそれに応じて多くなることに注意する。
例題1
図のようになめらかな水平面上に置かれた質量mの物体に互いに逆方向の力f1, f2をかけたとき、この物体に生じる加速度はいくらか。(★☆☆☆☆)

例題2
図のように大きさFの動摩擦力がはたらく水平面上に置かれた質量mの物体を大きさfの外力で引っ張った結果、物体は一定の速度vで運動した。
この時、動摩擦力Fと外力fの関係を表す式を求めよ。(★★☆☆☆)

例題3
図のように水平面上に置かれた質量Mの物体1の上に質量mの物体2が乗っており、物体1のみを外力によって引っ張る運動を考える。

(1)物体1, 物体2それぞれにはたらく水平方向の力を矢印で図示しなさい。ここで、水平面および物体1の上面には摩擦力がはたらくとする。(★★☆☆☆)
(2)物体1, 物体2は同じ加速度で運動した。このとき、物体1, 物体2における加速度aを求めよ。(★★★☆☆)
00はじめに
さて、今回はニュートンの運動方程式という物理学の基本概念について一から解説する。
高校物理や物理基礎を学習していて、この運動方程式が出てきたあたりから急に複雑な問題設定やたくさんの文字が出てきて混乱する人は特に多く、運動方程式についての疑問が解けないまま学習を進めてしまう人も多い。
これらのことを踏まえて、ここでは初歩の初歩から学習し、しっかりと運動方程式を理解することを目標とする。
このページは主に以下の事柄について理解することを目的としている。
・運動方程式とは何か
・運動方程式の成分表示について理解する
・加速度と力の関係を知る
・質量について知る
・実際に運動方程式を用いた問題を解けるようになる
運動方程式に入る前に、力に関する基礎的な内容は以下の記事で学ぶことを推奨する。

【図解】力の性質とベクトルについて理解を深めたい人へ【物理基礎】
力とは?力の性質や合成、分解について詳細に解説しました。
物理基礎を学び始めた人にとって障害となりやすいベクトルの合成ですが、ポイントを押さえればとても簡単です。
実践を見据えた細かいコンテンツで物理の勉強をサポートします。
01運動方程式についての諸注意
さて、運動方程式の具体的な話に入る前に、一つ重要なことがある。
それは、「運動方程式は力学の公理で、証明不可能である」
ということである。(厳密には証明できる物理の世界も存在するが、難しいのでここでは扱わない。)
力学のほぼすべての法則は運動方程式を使って証明することができるが、その運動方程式そのものは数式を用いて証明することができない。
というより、運動方程式をすべての理論の出発点とすることによって力学の理論は成り立っているので当然のことである。
とりわけ力学をはじめとした物理学の世界においては、現実的に起こりうることを数式を用いた理論で裏付けするというスタンスであるから、乱暴に言えば「運動方程式がなぜ成立するのか」がわからなくても「運動方程式を使えば簡潔に理論を構築できる」という事実の方が重要なのである。
・運動方程式は証明できず、公理の方程式として扱う。
・運動方程式は力学のルールである。

実は運動方程式は原子や電子といったミクロな世界では厳密に成り立たないことが知られており、このようなミクロな世界を扱うためには「量子力学」という学問を学習する必要がある。
そう言うと、
「じゃあすべて量子力学を使えば良いのでは?」
「なぜ正しくないとわかっているのに運動方程式を使い続けるの?」
という疑問が浮かぶかもしれない。しかし、その考え方はあまりに短絡的である。
運動方程式を用いた力学の理論は、現実の世界のスケールでは何ら問題なく、しかも量子力学なんて難しい概念よりもはるかに簡単に使用できることこそが運動方程式を用いた力学(古典力学という)の存在意義なのである。
物理をはじめとした科学(Science)の世界では、特にミクロなスケールとマクロなスケールを適切に使い分ける必要がある。
例えば、ボールを構成している原子一つだけを見ていても、現実世界でボールがどのように動くのか予測することは非常に困難である。なぜなら原子同士は単純な運動の重ね合わせではなく、相互作用する可能性があるからである。
このように、現在も古典力学はマクロなスケールを簡潔に表現できる理論として用いられている。
02 運動方程式の形
では運動方程式と呼ばれる式の形、そしてこの方程式が何を表しているのかを見ていくことにする。
物理学における最重要の式といっても過言ではないこの式、運動方程式は
$$m\vec{a}=\vec{F}$$
と表される。
ここで、$m$は注目している物体の質量[kg]、$\vec{a}$は加速度ベクトル[m/$s^2$]、そして$\vec{F}$はその物体にかかる力のベクトル[N]を表している。
さて、ベクトルという量が出てきて混乱する人も多いと思うが、加速度や力は方向を持っているというだけのことである。
わからなければここではあまり深く考えなくても後々理解すれば大丈夫である。
この運動方程式を方向の成分ごとに分けて大きさだけを考えることによって、ベクトルではないバージョン
$$ma=F$$
となる。
これは方向の成分ごとに分かれているから、加速度$a$と力$F$の方向は一直線上(逆向きでもよい)でなければならないことに注意する必要がある。
従って、図のようにたとえ一つの物体だとしても様々な方向から力を受けている場合、任意の方向に力と加速度を分解し、それぞれの方向について運動方程式を立てる場合も多い。

運動方程式は方向成分ごとに分けて立式するのが基本
さて、運動方程式を眺めてみると一つ重要な事実がわかる。
それは、$F=0$ ならば加速度はない、つまり力が釣り合っていれば物体の速度はそれ以降変化し得ないということである。
逆に言えば、力そのものはかかっていても良いのである。物体にかかるすべての力が釣り合っていて、合力が0であることこそが物体の運動をそれ以降変化させない条件となる。
$F=ma$ か $ma=F$ か問題
実はこの$F=ma$ か $ma=F$ のどちらを使うか問題は昔から議論されており、これらのどちらを使うかによって運動方程式の持つ意味が多少なりとも変わる可能性がある(と主張されている)。しかし私は一般的な力学の問題を解く際には$ma=F$の方が問題を解く際に便利なのでこちらを使うことを推奨する。
なぜなら一般的な問題において加速度の$ma$の項よりも力$F$の項の方が長くなりやすく、右側に書いた方が式をきれいに書けるからである。
実際には$F=ma$ という形も、さらには$ma-F=0$ なんていう形も良く使われている。
物理の式には、このような「流派」による違いなどが一定数存在することを知っておくと良い。
次に、もう一つ大切なのは質量$m$の存在である。
質量というと「物体の重さ」というイメージがあるかもしれないが、それは実は間違いである。
実際の「重さ」に当たるのは、物体が地球上で受けている重力のことで、この重力は「質量×重力加速度(約9.8m/s^2)」として求めることができる。
では質量とは何なのであろうか?
$$ma=F$$
という式を見ると、ある一定の力を加えたとき、質量が大きければ大きいほど、加速度は小さくなると理解できる。
例えば、テニスボールがぎりぎり動くくらいの大きさの力をトラックに与えてもトラックはびくともしないだろう。
これはトラックの質量がテニスボールの質量に加えてはるかに大きいからということになる。
つまり質量とは、「物体の加速しにくさ」を示しているということができそうである。

ではここまでの話をまとめる。
・運動する物体は運動方程式に従う。
・「加速度あるところに力あり」
・質量とは物体の「加速しにくさ」
03 運動方程式を使って問題を解く
では運動方程式を実際の問題の中でどのように使うのかを見ていくことにする。
運動方程式は、原則力学におけるほぼすべての問題に登場するといって過言ではないだろう。(例外はあるが)
従って、力学の問題に出会ったらまず運動方程式を立てるという癖をつけてしまうことが力学攻略のカギになることは言うまでもない。
具体的には、
1.注目する物体を決定する
2.その物体にかかる力を正確に把握する
3.運動方程式を立てる
4.未知数について解く
という手順を踏むことになる。
ここで、運動方程式は「注目する物体」について立てるので、注目する物体が2個、3個とある場合は立てるべき運動方程式もそれに応じて多くなることに注意する。
例題1
図のようになめらかな水平面上に置かれた質量mの物体に互いに逆方向の力f1, f2をかけたとき、この物体に生じる加速度はいくらか。(★☆☆☆☆)

例題2
図のように大きさFの動摩擦力がはたらく水平面上に置かれた質量mの物体を大きさfの外力で引っ張った結果、物体は一定の速度vで運動した。
この時、動摩擦力Fと外力fの関係を表す式を求めよ。(★★☆☆☆)

例題3
図のように水平面上に置かれた質量Mの物体1の上に質量mの物体2が乗っており、物体1のみを外力によって引っ張る運動を考える。

(1)物体1, 物体2それぞれにはたらく水平方向の力を矢印で図示しなさい。ここで、水平面および物体1の上面には摩擦力がはたらくとする。(★★☆☆☆)
(2)物体1, 物体2は同じ加速度で運動した。このとき、物体1, 物体2における加速度aを求めよ。(★★★☆☆)